閑話休題

ブログの効能と言わば何ぞ其れ日々の由なし事の記帳に限らんや

映画感想:水曜日のエミリア

director: Don Roos
cast: Natalie Portman, Scott Cohen,

感想

 最近「完璧主義」なる言葉を知った.「定められた時間、限られた時間の内にて完璧な状態を目指す考え方や、精神状態のこと」である.完璧主義は諸刃の剣で,決められたことに対して結果を出すことには長けている.いわゆる「優秀な人」とカテゴライズされる人間には,少なからずこの要素が必要である.しかし「完璧」以外を許容しないので,完璧ではない状況を受け入れることが出来ず,何か問題のある他者に対する思いやりにもかける.いかなる事情があろうと,「正しくない」ものは改善されるまで徹底的に否定し続ける.
 こうした生き方は,自分の努力次第で結果をある程度コントロールできることに対しては有効だが,人生ってそんな簡単なもの?本作はそんな疑問に答えてくれる.
 ハーバードロースクール卒の新進気鋭の弁護士エミリアは,ベテラン弁護士のジャックと結婚する.しかし継子のウィリアムは懐かず,ジャックの前妻からは目の敵のようにされる.ジャックとの間に生まれた子供イザベルは生後間もなく死んでしまう.エミリアはウィリアムとの中を深めようとするが,どれも逆効果.彼との距離は縮まらない.イザベルのことを忘れるべく参加した乳幼児追悼パレードでは,ストリッパーに入れあげて母と離婚した父をなじってしまい,それまでエミリアをかばい続けてくれたジャックにも愛想をつかされてしまう.頑張れば頑張るほどそれが空回りして,物事が悪い方向に転んでいく.
 そんな折,父と街中で出会う.失った子供や,幸せだった過去を取り戻したいと嘆くエミリアに対して,父は「それはできない」と答える.子供の死も,ジャックとの離婚も,全て受け入れるしかないのだと父は話す.
 結局離婚が成立し,ウィリアムとも滅多に会えなくなるが,それでもエミリアは,幸せになったように思う.それは「過去を取り戻すこと」などという完璧主義の狭量な解決策によって得たのではない.それは自分の力ではどうにもならないことを受け入れるという,いわば人生の処方箋を受け取ったことに由来しているのではないか.ストーリーの表層だけをすくえば,夫の複雑な家庭環境に馴染めずに離婚に至っただけであり,バッドエンドに他ならないが,自分にはエミリアが人生の幸せに気づくハッピーエンディングであるように見えた.
 アメリカの映画サイトrotten tomatoではこの映画は酷評されていた.思うにアメリカ的価値観とのマッチしなかったのではないか.アメリカンドリームの発想に代表されるように,アメリカには正義や正解は必ず存在し,それを獲得する為に努力をすることを美徳とする価値観があるように思う.これは完璧主義と非常に相性が良い.そのため,完璧主義を捨てたエミリアは,アメリカ人には魅力的な人間とはみなされず,ただの負け犬であると言うようにしか見られなかったのだろう.同じようなテーマで映画を撮り続けているウッディ・アレン作品がアメリカで不人気であり,彼自身もハリウッドを嫌っているという状況と,本作に対するアメリカの評価は少なからず共通する点がある.

最後はアメリカ文化論もどきのような大味な話になってしまったが,数年後にもう一度見たい,ビターな大人の映画であった.

P.S.
ナタリー・ポートマンはこういう精神的に病んでいる才女の役割がはまり役なのかな.スターウォーズもブラックスワンもそんな役柄だし.個人的に今回のエミリアはサイドエフェクトのルーニー・マーラと並ぶ好演だったと思う.