閑話休題

ブログの効能と言わば何ぞ其れ日々の由なし事の記帳に限らんや

映画感想:キャピタリズム~マネーは踊る~

基本情報

監督:マイケル・ムーア
公開年:2009年

あらすじ

というか映画の内容.08年9月のリーマンショック後に作られた映画.アメリカで金融業界が経済だけでなく政治の世界でも主導権を握りつつあり,それが普通のアメリカ人の生活を破壊していく様子を描いたドキュメンタリー.市井の人々を取材し,拝金主義的な金融業界に彼らの生活が踏みつぶされていく様子をみつづけた末,マイケル・ムーアはアメリカが守るべきは民主主義であり,金融業界に主導された資本主義ではないと訴える.そしてフランクリンルーズベルトが提唱した第二の権利章典の実現こそがアメリカの目指すべき方向であると結論する.

感想

話の流れとしては民主主義こそがアメリカの目指すべき方向であるとされている.その民主主義を金融業界主導の資本主義が踏みつぶそうとしている.それを防ぐのは"We, ordinary people"であるということになっている.
民主主義が必ず守られるべきテーゼであるということに関してはあまり反論はないしその通りだと思う.でも,資本主義はこの映画の最後のセリフに"capitalism is evil"として出てくるように悪なのだろうか?この問題を考えようとすると資本主義とは何かと言う厄介な問題にタックルしなければ行けなくなってくる.それは面倒なので,資本主義をA.Smithのいう"God's invisible hand"に媒介された社会システムと,金融業界に主導された今日的資本主義に分けて考えてみたい.
前者は,あくまでも,個人が利己的になって自己の利益を最大化しようとする時に社会全体が創出する富は最大化されるということを説いているに過ぎない.分配の不公平生が生じるか否かは,経済活動が開始される原初状態の初期配分によって規定される.初等的な経済学の問題集に出てくる問題の中に

「二人の消費者と二つの財(両財ともそれぞれ100単位ずつ存在する)が存在する経済で2消費者が現在所有している財を交換するとする.消費者1が第1材を100,第二材を100所有する場合,初期状態はパレート効率的か?」

というものがある.答えは「パレート効率的」である.効率性は99%の国民の富の総和よりも1%の国民の富の総和の方が多い状態を場合によっては否定しないのである.つまり資本主義の一番原理的な部分は「富はいかに分配されるべきか」という問題に関しては答えていない.しかし皆が利己的になる時に社会全体のパイは最大化されると言っているのである.であれば,個人の振る舞いが資本主義的であることに対しては問題はないのではないかと思う.問題はきちんとした分配をするような制度設計がなされていないことである.
一方金融資本主義はどうか?之に関しては良く解らない.ただし社会全体の厚生を考えて行動しているとは思えない.こうした人たちに経済制度設計の主導権が握られることは確実に問題だと思う.
それからこの映画の中には,サブプライムローンで家を奪われる人たちが出てきて,差し押さえにやってくる銀行の無法ぶりをののしっているシーンが幾つか出てくるのだが,彼らはホントに被害者なのだろうか?日本人の感覚からすれば,「上手い話には必ず裏がある」と考えるものだ.彼らは「汗して働く以外にお金を設ける手段等ないと思え」と教育されなかったのだろうか?彼らは本作が徹底的に批判し存在を否定する金融資本主義に乗っかってキャピタルゲインから生じる甘い汁を吸おうとしたいわば共犯者なのではないか?だとすれば彼らはゴールドマンサックスのCEOと一緒になって08年のリーマンショックの片棒と担いだ点では同じで,その後きちっとおとしまえを付けさせられただけである,としか思えない.

もひとつ加えておくと,日本の若者が物欲をなくしつつあるというのもあながち悪くないことなきがしてくる.人口が減少する之からの日本で経済成長を志向すれば,「儲けたもん勝ち」みたいな風潮が膾炙し,幸せの基準が金銭へと大きくシフトしていってしまうような気がするからだ.ゆとり教育の正の外部性と言ったところだろうか