ヨアヒム・ラートカウ『自然と権力-環境の世界史-』の感想
基本情報
著者:ヨアヒム・ラートカウ
出版社:みすゞ書房
発売:2011年
感想
正直な話、この本を読んだ人の何パーセントが読了しているのだろうか?読み終わったあとにはひどく疲弊するとともに、どっと徒労感が襲ってきた。
たしかに現在の環境問題全般に対して歴史学の立場から考察を加えたことの意義は大きい。人間が道具を手に入れ、自然に働きかけるすべを得て以来、環境問題は永々と続いてきたのだと言うことを、この本は改めて気づかせてくれる。そしてそこで行われてきたのは、時と場所によって本当に千差万別な自然に体する破壊と保全の営みだということも具体例を通してよく示されている。江戸時代の日本の森林保全についても言及されており、日本の環境保護運動のルーツを探る上でも興味深い。
しかしいくら読んでも具体的史実が記述されるばかりで、筆者の言わんとしていることが伝わってこないのがもどかしかった。
もちろんそれは決定論的唯物史観に依って立ったマルクス主義歴史学へのポストモダン的批判を受けたもので、限られた歴史的事実から普遍的な法則を導きだすことを強く忌避しているからだという事情はあるのかもしれない。だがあまりにも決定論の回避を徹底しすぎているが故に、事実の羅列にしか見えなくなってくる。途中から古文書を読んでいるような気分になり、本を閉じたくなってしまった。
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古典として読み継ぐべき大作であることは論をまたないのだが、ちょっとしんどい…