閑話休題

ブログの効能と言わば何ぞ其れ日々の由なし事の記帳に限らんや

映画感想:夏の終わり

基本情報

監督:熊切和嘉
出演:満島ひかり綾野剛小林薫
公開年:2012年

あらすじ

作家の瀬戸内寂聴が出家前の瀬戸内晴美時代に発表した小説で、自身の経験をもとに年上の男と年下の男との三角関係に苦悩する女性の姿を描いた「夏の終り」を、鬼才・熊切和嘉監督が映画化。妻子ある年上の作家・慎吾と長年一緒に暮らしている知子。慎吾は妻と知子との間を行き来していたが、知子自身はその生活に満足していた。しかし、そんなある日、かつて知子が夫や子どもを捨てて駆け落ちした青年・涼太が姿を現したことから、知子の生活は微妙に狂い始める。知子は慎吾との生活を続けながらも、再び涼太と関係をもってしまい……。主人公・知子役に満島ひかり。慎吾役はベテランの小林薫、涼太役に注目の若手・綾野剛が扮する。
夏の終り : 作品情報 - 映画.com

感想

何が絶望をもたらすのだろうか?それはおそらく,津波の如く刹那に訪れる破壊的状態に起因するものではない.むしろ寄せては返す波打ち際の波のごとく,しかし去ったと思えばまた訪れる終わりなき不快感なのではないか?俗世にうつつを抜かしている自分には,その真偽を確かめるだけの洞察力も備わっていないし,真偽をうやむやにして生きていくことに僅かな疑念さえわかない.しかし,絶望の正体に気づいてしまった人間がもしいたならば,彼彼女はどう生きていけば良いのだろうか?
 小説家慎吾の妾である知子は,故郷に夫と子供を捨て,東京で暮らしている.妾としての生活は既に8年の長きに及んでいた.二人の間には愛はないが,それに変わる何かがある.そんな平穏な生活を危険にさらしてまでも,知子が涼太と関係を持ってしまうのは,絶望故なのであろう.不安,嫉妬,苛立ち,悲しみ… 名状し難い負の感情が寄せ手は返す波の如く襲い,積み重なって絶望を形成する日々に対して,それが合理的でないとは分かっていても,もがかずにはいられなかったのではないか.二人の男の間を行ったり来たりする彼女の刹那的な行動からは,そんな真理が見え隠れする.
 慎吾も同様に,処理しきれない絶望を抱えていたように見える.彼の場合,その絶望は内にこもり,彼をして厭世的な
人間足らしめている.
 二人の関係は,そうした絶望を紛らわせる拠り所となっていた.しかし,涼太の登場で二人の関係が,所詮は絶望を紛らわす為の欺瞞的態度に過ぎないと気づいたところで,関係は決定的に崩壊する.
 物語の最後は決して明確なメッセージを見る側には伝えていない.しかし,明るく,前向きなメッセージが発せられているように思った.少なくとも知子は,自分一人の力で生きることに希望を見出だすようになる.妾としての展望なき日々が終わり,独立独歩で生きていく日々に喜びを感じたのだろうか.あるいは長過ぎる絶望の日々が,彼女に絶望することを飽きさせたのだろうか?それは良く解らない.しかし彼女が絶望を抜け出し,希望に向かって歩き出したことだけは間違えがない,そう思わせるラストシーンであった.

P.S

なんか良く解らない文章になってしまいましたが,それはこの映画が非常にスローテンポで,非説明的な映画だったからだと思います.あまり理屈っぽく解釈してもしょうがないのかな.言葉にならない,感情のよろめきのようなものが心の深いところで生じたならば,この映画を見た回があると言えるのでしょう.
閑話休題,この映画は成瀬巳喜男とか小津安二郎といった昭和20-30年代の東宝映画を彷彿とさせる要素がいっぱいです.他の作品と似たような配役がなされているということが多いですが,本作は連続ドラマ「woman」の配役がいやがおうにも想起させられるかと思います.他にも昭和20-30年代観を感じるところは多いので,日本映画ファンの方は必見ですよー