閑話休題

ブログの効能と言わば何ぞ其れ日々の由なし事の記帳に限らんや

映画感想:そして父になる

基本情報

監督:是枝裕和
出演:福山雅治,尾野真千子真木よう子リリー・フランキー,二宮慶多,黄升げん,風吹ジュン
國村隼樹木希林夏八木勲中村ゆりピエール瀧田中哲司井浦新
公開年:2013年

感想

「負けたことのない奴って本当に人の気持ちが分からないんだな.」
劇中に出てくるこの台詞が,この映画の肝を簡潔に説明している.
 考えうる限り一番良い選択肢を選択することが最良とは限らない.ろくでもない選択肢と分かっていても選択せざるを得ない場合もあるだろう.そんな自分の力ではどうにもならない現実を受け入れることが,人生における成長なのであり父になるということなのである.この映画はそんなテーゼを示していると感じた.
 建設会社に勤めるエリートの良多は,決して結果に対して妥協することなく,常に最高の結果を求め,それを獲得し続けてきた男である.実の息子だと思っていた慶多が実は病院の不手際による新生児取り違えで自分たちのもとにやってきた赤の他人の斎木夫妻(リリーフランキー真木よう子夫妻)の子供であると知る.
 最初は出来るだけ速く子供達を”交換”しようとしていた良多だったが,徐々に二人ともこちらに引き取ろうとするようになる.その旨を伝えた際に出た斎木雄大の言葉が言葉が冒頭の言葉である.
 結局はお互いの子供を交換することに落ち着くが,慶多が斎木家に良く懐く一方で,斎木家からやってきた琉晴はいっこうに懐かない.良多は悩む.何故上手く行かないのか?琉晴都の関係に悩み試行錯誤を繰り返す中で徐々に,良多は「かくあるべき」ということを子供に押し付けるのではなく,子供の気持ちを考え,子供の気持ちに寄り添ってやることが大切だと気づいたのではないか.その思いは「昔の子供」慶多への接し方に対する反省を生んだ.
 映画のラストシーン,もう自分の子供では亡くなった慶多に対して,良多は慶多が自分に対してしてくれた些細なことに対する感謝を述べ,詫び続ける.それが慶多に受け入れられたかは判然としない.その後琉晴が懐いたかも分からない.物語はハッピーエンドともバットエンドともつかない形で閉じられている.しかし一つだけいえることは,良多が一連の出来事を通して,正しい「そうあるべき」主張を押し通すことは必ずしも正義ではなく,相手や状況によってはそれとは違った選択肢を受け入れることも必要だと言うことを学んだと言うことである.そしてそれこそが「父になる」の意味である,ということがこの映画のタイトルには込められているのではないだろうか?