閑話休題

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映画感想シェア:攻殻機動隊 新劇場版 -映画館で見た!-

「人間が人間として存在するための必要条件は何か?」
25周年を迎える攻殻機動隊シリーズが観客に投げかける問いは不変かつ普遍の上のような問いである.本作はカテゴリーとしてはクライムサスペンスやSFに属するのであろう.しかし本当の問いは我々の存在に対する根源的な問いに還元されていくのではないか.


6.20全国公開「攻殻機動隊 新劇場版」劇場本予告 - YouTube

国民国家が消える時?

舞台は2029年,ニューポートシティー.世界大戦を契機として世界的に義体と電脳の使用が爆発的に普及していた.この技術革新は義体と電脳を開発する企業集合体を国民国家に匹敵する存在へと引き上げる.ここには国家VS巨大企業集合体という対立構造が措定されている点は,グローバル企業が国家を凌駕するという今日的な課題と本作との類似性を示している.もしかしたら,国民国家が消滅(または有名無実化)するのは本作に示されているような状況が現実のものになった時なのかもしれない...
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巨大企業集合体が,国家に匹敵する存在になることができのは,個人の情報と軍事力という国民国家の要諦をなしてきた2大要素を抑えることに成功しからだ.個人の情報に関しては,企業の構築した電脳ネットワークにより,企業はこれまでは捕捉することのできなかった選好や感情などもすべて把握できるようになった.企業の情報システムの中に個人がスッポリと包含されるような状況が現出したというわけだ.軍事力に関しては,義体化した兵士が中心的な戦力となっていく.そして軍事作戦はすべて電脳を介したネットワークによるコミュニケーションに依拠するがゆえに軍隊といえども企業なしには戦争は成り立たなくなる.結果として,軍上層部に巨大企業集合体の人間が食い込んでいくという現象が生じ,国防の民営化という事態が生じる.

もはや義体と電脳は人間の身体と精神をコントロールする「ネオ全体主義」とでもいうべき状態を現出させていたのである.
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デッドエンド問題

しかしここで大きな問題が発生する.デッドエンド(行き止まり)問題だ.当たり前だが,義体は電脳との接続によって正常に動作する.ゆえに旧型の義体のサポートが終了してしまえば,義体は電脳ネットワークから孤立し,朽ち果てていく.作中ではこのデッドエンド問題に絶望した兵士たちの自殺,という問題も登場する.

このような状況下では,対応は二つに一つ.電脳開発を抑制することでデッドエンドを防ぐか,構わず技術革新をつづけ,犠牲を受け入れるか.日本政府は前者の方針を支持する一方,東亜通商連合は後者の立場を(陽表的にではないにせよ)推進し,対立していた.

スタンドアローンか,ネットワークか

義体-電脳開発を進めていた軍の特務機関はデッドエンド問題を当初から予測していたため,二つのタイプの義体-電脳を開発していた.
第一のタイプは,スタンドアローンタイプで,義-電脳が学習能力を有するために,外部からのアップデートなしでもデッドエンドを回避することができる.主人公草薙素子はこのタイプに属する,
第二のタイプはネットワーク指向タイプである.このタイプはスタンドアローンタイプのような拡張性は持たない.その代わりに自分の持つあらゆる知識や経験,記憶をデータとして保存する.そして,新しい義体-電脳セットにデータをインポートすることで,謂わば,「永遠の生」を享受することができる.このタイプにはクルツが該当するが,作中ではこのネットワーク指向タイプはまだ完全には実現していない.
草薙は技術開発抑制を主張する日本政府に仕えるが,クルツは東亜通商連合と連携している.

二つの義体-電脳タイプの最大の違いは,物理的実体を持たない知識や経験,記憶と,物理的実体を持った義体の対応関係にある.スタンドアローンタイプは一対一の関係を保持するのに対して,ネットワーク指向タイプは一対一対応にこだわらない.この違いは冒頭の問いを考える上では示唆に富む.
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人間の条件

ここのあたりで冒頭の問いに答えておくべきだろう.
本作の提示する内容に従って考えるならば,人間であるための条件は「ゴースト(魂)を有すること」,である.なんども草薙が口にする
「自分のゴーストに従え」
という言葉は,他の誰からも,いかなるプログラムからも影響を受けないスタンドアローンな自分の意志の導くままに行動せよ,と解釈すべきだ.
他者に従属することなく,自分の意志で自分の将来を決定する能力を有する限り,電脳ネットワークに依存しようが,全身義体であろうが人間であるための必要条件は満足するのだ.
草薙素子の本作最後のセリフを借りれば,人間とは
「未来を創る存在である」
とも言えるであろう.

最後に...

時代を2015年に戻そう.そしてこう問いたい.
「私たちは人間としての必要条件を満たしているだろうか」
攻殻機動隊の与える問いかけは,斯くも難しい.

基本情報

監督:黄瀬和哉
出演:坂本真綾,塾一久,松田健一郎,新垣樽助,咲野俊介ほか
上映時間:100分
公開年:2015年