閑話休題

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『撤退の農村計画―過疎地域からはじまる戦略的再編』(学芸出版社)の感想/「農村振興論」にかけていた視点を補強||林直樹編

感想

 大野晃による「限界集落」という用語に代表されるように、生産年齢人口が極端に減り、存続が困難になった集落は少なくない。国土交通省の試算では、「いずれ消滅する」とされた集落は全国に2643カ所にのぼる。山村の過疎化に対しては、いかに山村を振興して人口減少を食い止め、高度経済成長以前のような活力のある状態に戻すか、という視点で対策が語られることが多い。



 しかし編者らはそうした従来型の議論に対して根本から疑問を投げかける。生産年齢人口がほぼ皆無の集落を昔の状態に戻すことは出来ないとの前提に立ち、「積極的な撤退」を訴えているのが本書の特徴だ。「積極的な撤退」の最大の特徴は、人口減少により集落が自然消滅する前に集落移転を行い、残された集落跡地は人手をかけずに管理することを提唱している点だ。

 今年の夏、いわゆる「限界集落」を訪れて住民の方にお話を伺ったことがあるのだが、とても良好な住環境とは思えなかった。都市並みの収入を得るはたらき口はほとんどなく、病院までは車で30分。おまけに買い物も週に1〜2回しか来ない行商頼みというのが実情。住民も高齢者がほとんどで、50歳半ばの人が「若手」と呼ばれて村の力仕事を任されているのには心底驚かされた。疲弊し切った集落の様子から、「のどかな山村」というのが、都市住民の身勝手な幻想に過ぎなかったことを痛感させられた。

 本書の執筆者も同じような考えを持っているのだろう。かたくなに集落を維持することは、そこに住む人にとって負担ばかりが大きく得るものが少ない。だからこそ「積極的な撤退」が主張されているのではないだろうか。

 「積極的な撤退」は山村集落の住民が鉄道駅のある地方都市に集落後と移転することを想定している。移転のメリットは、介護や通院の利便性が向上するだけではない。山村に住んでいては難しい息子・娘世帯と一緒に生活することのハードルは大きく下がる。また過疎集落ではお祭りや冠婚葬祭などの地域行事を催行することも難しいのが現状だが、地方都市に出てくれば、近隣の住民の協力を得てこうした行事を存続することも可能になるかもしれないという。「積極的な撤退」は決して集落の存続をあきらめるのではなく、むしろ集落存続のための方策なのだ。

 もちろん、課題も少なくない。そもそも移転の費用はどのように捻出するのか、移転後に職を得ることは出来るのかといった問題もさることながら、残された集落跡地を適切に管理する方法が本書に十分に示されているとは思えない。こうした点を今後議論していくことは、「積極的な撤退」を実際に実行するにあたってはとても重要だ。

 とはいえ、ともすれば感情的に集落保守を訴えがちだった論調に一石を投じた本書の意義は非常に大きい。プラクティカルな国土管理を考える上では必読の書といえる。