閑話休題

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三浦展『東京は郊外から消えていく!』(光文社新書)の感想

基本情報

著者:三浦展
発行年月:2012/8
出版社:光文社(光文社新書)
ページ数:206頁
定価(税込み):840円.

概要

出典:東京は郊外から消えていく! 三浦展 | 光文社新書 | 光文社
かつて団塊世代が東京圏にあふれ、郊外に大量の住宅が建てられた。それが今や、人口減少社会へと転じ、ゆくゆくは40%が空き家になるという予測も出ている。そうなれば、東京の随所にもゴーストタウンが現れるだろう。長年ローンを払い続けて手に入れたマイホームも、資産価値のない「クズ物件」となってしまう。日本の都市は、他にもさまざまな問題をはらんでいる。居場所のない中高年、結婚しない若者、単身世帯の増加……。とくに首都圏では、それらが大量に発生する。これから郊外はどうなる? 住むべき街とは? 不動産を最大限に活用するには? 独自の意識調査をもとに、これからの東京の都市、郊外のあり方を提言する。

感想

日本の人口減少は規定事実のようになっていて,2050年には8000万人程度まで減少するという予測はだいぶ世間に膾炙するようになってきた.しかし上記のような予測が語られる際には,地方の衰退が語られる場合がほとんどで,東京に焦点を当てた考察は少なかった.本書は人口減少時代の東京圏の郊外地域のあるべき戦略が議論されている.特徴的なのはほぼ全ての議論が統計資料かアンケート調査などの生データに立脚して進められている点である.このような構成は本書に占める数字と図表の割合を高めており,議論の簡潔性を高め説得力を持たせる反面,読みやすさが犠牲になっている感もある.いずれにせよデータ志向型の議論が本書の構成上の大きな特徴になっている.

現状認識

著者はまず,日本の人口減少を所与として,東京圏の人口減少予測に触れている.それによれば,25年後には首都圏の人工は300万人減るらしい.併せて高齢化も進行するので,今のまま行けば,郊外はゴーストタウン化することが見込まれる.
郊外は現状のベッドタウンに甘んじていては衰退するのみで,新しい地域像を打ち出して活性化を図る必要がある,というのが筆者の主張だ.

もう一つの論点として若者の嗜好の変化に言及している.
団塊ジュニア以下の若い世代の嗜好はブランド重視から機能性重視へと移りつつあるという.また共働きの増加による職住一致型ライフスタイルに対する希望も高まっているという.具体例としては近年高まりつつある「下町3区」とさいたま市に対する居住希望の高まりを挙げている.どちらも職住一致型のライフスタイルが実現しやすい土地なのである.

著者の主張

以上の現状認識を踏まえて,著者は職住一致型の郊外都市圏の創造を訴えている.つまりこれまでは都心のベッドタウンとして「住」の機能に特化していた郊外都市に,「職」を持ち込もうということである.機能分化していた郊外都市をクリエイティブな町にして,若者を引きつけ,再び郊外に活気を取り戻す,これがゴーストタウン化に対処するために著者が提示する処方箋となっている.

著者の主張に対して思うこと

これまで都心が独占してきた「職」を郊外に引きつけ,若者を呼び込むという発想はその地域がこれから「勝ち組」となるためには必要不可欠であろう.
しかし東京圏への急激な人口流入が停止するという予測を所与とすれば,勝ち組の裏には必ずゴーストタウン化する負け組の地域が生まれる.東京圏の全ての地域が職住一致の魅力的な町になりうるとはと言う底思えないからだ.
本書はあくまでも勝ち組になるための処方箋を示したものであるから,負け組の存在にどう対処するかに言及していないが,恐らく負け組への処方箋も之から考えていかなければならないのであろう.
もちろん所与とされる人口減少が発生しない場合も考えられる.それは「勝ち組」地域の魅力により,東京圏内にとどまらず圏外からも多数の人口が流入する現象が生じた場合である.しかしこの場合にも必ず負け組が生じる.恐らく東京圏内の勝ち組と競合することになる地方中核都市だ.
何れにしても人口減少がほぼ決定事項である以上,今後は納税者であり,医療負担の小さい,若者の集中する町づくりを目指した都市間競争が激化することは免れないようだ.

散歩したくなる

閑話休題,この本を読むと,東京の色々な町を歩いてみたくなる.本書ではほぼ全ての箇所で具体的な地名に即した記述がなされていて,普段は通過駅でしかないような駅にも,その駅なりの特徴があると言うことを教えてくれるからである.
以上のような観点から見れば,本書は「東京散歩案内」として読むのもまた一興かもしれない.